東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)123号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実及び蛍光灯や白熱電球の点滅による光によつて誤動作するおそれを解決するためには、所定の成分の光のみを通すフイルタを受光部に設けることをもつて足り、投光部に設けることは不要であることは当事者間に争いがない。
二 本件審決を取り消すべき事由1について
成立に争いのない甲第三号証(意見に代える手続補正書)によれば、<1> 原告が審判手続で提出した意見に代える手続補正書中の訂正明細書の考案の詳細な説明の項八頁一〇行目から一一行目にかけて「誤動作するおそれはなく、」との記載があり、<2> これに続いて同頁一一行目から一三行目にかけて「また他人の閃光装置の特定の信号を含まない閃光によつても誤動作するおそれがなく、」との記載があることが、認められる。
1 しかし、前記甲第三号証中の訂正明細書の考案の詳細な説明の項の記載、特に右<1>の記載の直前の同八頁八行目から一〇行目にかけての記載によれば、<1>の記載は、投光部と受光部に着脱自在に設けられたフイルタにより蛍光灯や白熱電球の光成分を除去することができるので、蛍光灯や白熱電球の点滅による光により誤動作するおそれがないとの趣旨であることは明白である。してみれば、<1>の記載は、投光部にフイルタを設けるのは、ストロボ閃光装置からカメラヘの信号伝達をより確実にするためと、その伝達光が目障りにならないようにするためであり、その結果、誤動作を防止する効果があるという趣旨であるとする原告の主張は肯認することができない。
2 また、前記甲第三号証中の訂正明細書の考案の詳細な説明の項の記載、特に同二頁八行目から一七行目まで、同四頁一三行目から同五頁一三行目まで及び同七頁一七行目から同八頁八行目の「構成したので、」までの記載によれば、<2>の記載は、本願考案のストロボ閃光装置にはその閃光波形に特定の信号を与える信号回路を設け、カメラにはその特定の信号を含む閃光を受けたときにのみ作動せしめられてシヤツタを作動させるためのシヤツタ作動回路が設けられているので、他人の閃光装置の発する特定の信号を含まない閃光によつてシヤツタが誤動作するおそれがないとの趣旨であると認められる。してみれば、<2>の記載は、自分と他人が共に本願考案の装置を使用する場合、投光部にフイルタを設けたことにより奏する特段の効果によつて互いに自己のストロボ発光により相手方のシヤツタが誤動作することがないから、各自の信号伝達は容易で、確実なものとなるとの趣旨であるとする原告の主張も肯認することができない。
3 さらに、原告は、本願考案は、ストロボ発光により余分の光を発射することによる目障りの防止、すなわち、眩しいという感じを他人に与えないようにする効果を奏する旨主張するが、そのことは前記訂正明細書に記載されていないことは、原告の自認するところである。原告は、眩しいという感じを他人に与えない効果を奏することは技術常識であり、目障りの防止は当然のことであるから明細書には記載しなかつたと主張するが、仮に、右のような効果が本願考案により奏されるとしても、右のような効果は、本願考案の構成自体から当業技術者が容易に理解することができ、明細書に記載がなくても当業技術者において容易に本願考案を実施することができる効果とは認められないから、明細書に記載することを要するものである。
4 したがつて、投光部にフイルタを設けることにより奏する作用効果として原告の主張するところはいずれも前記訂正明細書に記載されていないから、本件審決を取消すべき事由1は採用できない。
三 本件審決を取消すべき事由2について
前記甲第三号証(意見に代える手続補正書)によれば、前記訂正明細書の考案の詳細な説明の項三頁二行目に本願考案のストロボ装置の閃光管について、「クセノン管のような閃光管3」との記載があることが認められる。しかし、それ以上に、原告主張のような、キセノン管から出る光の成分の特色、受光素子の光の波長別の感度の特性、受光素子に赤外のフイルタを設けること、その結果SN比が向上すると共に可視光領域の雑信号をカツトでき、誤動作の機会が少なくなること、受信信号がシヤープになるのでデコードを精密にでき、更に信号選択の精度が向上するので雑信号による誤動作に対して強くなること、受信信号がシヤープになるのは波長フイルタの選択効果が二重に働くためであることについて前記訂正明細書に記載があることは認めることができない。
前記甲第三号証によれば、前記訂正明細書の考案の詳細な説明の項八頁八行目から一四行目にかけて「フイルタ25、27により蛍光灯や白熱電球の光成分を除去することができるので、蛍光灯や白熱電球の点滅による光により誤動作するおそれはなく、また他人の閃光装置の特定の信号を含まない閃光によつても誤動作するおそれがなく、確実にシヤツタを作動させることができる。」との記載があることが認められるが、その記載の趣旨は、前項において認定したとおりであつて、この記載をもつて原告の主張する前記の効果についての記載と解することはできない。したがつて、投光部にフイルタを設けることによる作用効果として原告の主張するところはいずれも前記訂正明細書に記載されていないから、本件審決を取消すべき事由2も採用できない。
四 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとする。
〔編註〕本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
ストロボ閃光装置にその閃光波形に特定の信号を与える信号回路を設け、かつ投光部に所定成分の光のみを通すフイルタを着脱自在に設けると共に、カメラにはこのストロボ閃光装置の光を受ける受光部に上記所定成分の光のみを通すフイルタを着脱自在に備えその光信号を判別するデコーダ回路と、このデコーダ回路に接続され上記特定の信号を有する所定成分の光のみを受けたときにのみ作動せしめられてシヤツタを作動せしめるためのシヤツタ作動回路とを設けて構成したカメラのシヤツタ作動装置。